Natural Poetry
Rydal Mount, Ambleside
→ 4th November ~ 28th November 2005
2005年、英国ロマン派の桂冠詩人ウィリアム・ワーズワースが37年にわたって暮らしたライダル・マウントにて行った、 現代詩人ガリー・ボズウェルと若きチェリスト、 ヨシカ・マスダとのアートコラボレーション。それは、家族で暮らし始めたイギリス湖水地方において、かつての偉大な詩人との対話の可能性を模索したものだった。 このプロジェクトは、1989年に東京・青山で個展を開催して以来、20年以上にわたって沈黙を守ってきた自身のイギリスにおける芸術の旅路の、ささやかな始まりではあったが、紛れもなく画期的な出来事だった。開催にあたり骨折ってくださったキュレーターのピーター&マリアン・エルキントン夫妻には、衷心より感謝申し上げたい。そして、このような歴史的に由緒あるライダル・マウントにてプロジェクトにてコラボレーションが実現できたことを光栄に思う。
ところで、ワーズワースが近代化の流れに抗うほど湖水地方を愛した詩人だったことはよく知られているが、ボクは、現代に依拠しながら、同じくここイギリス湖水地方がなおも留める自然美に霊感を求め、生前の詩人が日常の中で体験したであろう視覚的記憶、また豊かな感動の断片を辿り、自身の視覚言語として昇華してみたいと考えた。それは、英国に発した産業革命を機に刷新されてきた政治的、経済的、軍事的、思想的、社会的および精神的な世界構造と同一軌道上にある現代、その近代化がもたらした負の遺産(ポスト・コロニアリズム、環境問題、エネルギー問題など)に直面する現代から、産業革命が産声をあげた時代に生きたロマン派詩人の精神性を逆照射する試みであった。それによって、それぞれ芸術家の持つ豊かな創造性の共通項を、時代や国境を越えて導き出すことがきるのではないかと期待し、このコラボレーションが実現した。
個人的には、文字と視覚イメージとの間の創造的なかたちを模索しつつ、このシリーズの創作に臨んだ。これはまた、墨とアクリルを併用してのオリジナル線描法を駆使した最初のシリーズとなった。さらに、本プロジェクトは、既成のホワイトキューブ(つまり、ギャラリー)という枠組みを超えた歴史的建造物でのアート・インターベンションの最初の試みともなっている。