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Drawing in Colour
Hideyuki Sobue's Drawing in Colour entitled "Momiji (Drawing)"

Drawing

in colour

     トはいつから絵を描き始めたのだろう。2022年現在、世界最古の写実画とされているのが、2017年インドネシアで発見された洞窟画だ。褐色のピグメントを用い、野豚を生き生きと描いたもので、その制作年は少なくとも45,500年をさかのぼるという。一方、文字の発明はその後数千年を俟たなければならなかった。それはわずか紀元前3,000年のことで、古代メソポタミア文明で用いられた楔形文字がそれだ。すると、絵という手段が生み出されたのと文字の発明との間には、少なくとも42,000年もの隔たりがあるわけだ。人間の重大なコミュニケーション手段が、いかにして、またなぜ絵から文字へと移行したのか、ボクの関心は尽きない。

  ボクにとってドローイングとは、意味を探る基本的な手段だ。それは、多様な形や色彩、色調、情緒の探求であり、様々な技法や画材の研究であり、あらゆるコンセプトを可能な限り深める研究であり、心理的・精神的洞察であり、広範に及ぶ学術分野の探求である。その限りにおいて、絵とドローイングの境界は不明瞭となる、まさに太古の洞窟画のように。 イメージは往々にして、言葉より遥かに雄弁だ。同様に、言葉は想像力を掻き立てる。

  ここでは、色彩ドローイングを一堂に集めてみた。たとえば、油彩。油彩技法は、北方ルネッサンス初期の、ヤン・ファン・エイク、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンに代表されるフランドル画派が大成して以来、現代に至るまで西洋美術の主翼を担ってきた。この間、あらゆる技法や表現の可能性が、この画材により洋の東西を問わず模索され続けてきたが、もはやボクには油彩をもってしては何もなすことはないと思われるほどだ。ここに収めた油彩による寡作は、ボクが日本の墨とアクリルを併用したハッチング技法へと移行する以前の、手元にとどめた数少ない習作だ。そのほか、たとえば、バロック音楽の巨匠ヨハン・セバスチャン・バッハにインスピレーションを得、あたかも音楽家が楽譜を書くように、異なるテクスチャ、技法、パターンによるドローイングを一定の配列で構成してみる試みをした。バッハは、自身の創作活動の基をキリスト教信仰に据え、その創作プロセスで宗教的な象徴として扱われる数を楽譜に盛り込んだといわれる。ところで、絵画や写真などの平面芸術は空間芸術の範疇に数えられる。が、ここででは文学、音楽、映画などの“時間芸術”の要素を織り交ぜ、その境界を超克しようと試みた。これらシンボルを入念に配して人間のコアの営為を描きながら、その普遍パターンが現今のボク個人の日常にどう関わっているかを作品に昇華したつもりである。近年は、モチーフとなる人物の深い情動、理知的・心理的状態、微妙な感情などを十全に引き出すための、緻密な構成を念頭とした習作ドローイングが多くなっている。

Hideyuki Sobue's Drawing in Colour entitled "Self-Portrait 1997"
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